銀座というのは、前時代を愛でる懐古的な街ではないか。
文化の薫りを感じさせながらも、その薫りを追って歩いてもたどり着くのは歌舞伎座くらい。時代の残り香だけが辺りに充満し、その香りは美しいものの、正体を突き止められないままに夜になってしまうーーー。
夜になるにつれ、銀座の色香は濃くなってゆく。
碁盤の目を縫うように、お着物を身にまとった上品な女性がしゃなりしゃなりと街をゆき、夕刻の喫茶店では、高貴な夜の蝶たちが営業メールに勤しんでいる。私はそんな光景が好きです。その光景に、銀座の文化の薫りを感じる。
私は高級料亭や高級クラブには入れないけれど、夕刻頃の喫茶店でならば、まるでうつくしい蝶の翅の標本を眺めるみたいにして、うつくしいお洋服やうつくしい所作、うつくしいお顔をじっくりと見ることができるのです。
この作品の舞台となっている珈琲店でも、
夕方になると夜の蝶の翅が仕事の準備に勤しんで、私はそれをうつくしいと思います。
夜の街として六本木や新宿が勢力を強めているいますが、銀座には「風格の違う」夜の街としての揺るぎないイメージがあります。しかしバブル期には3000件もあった高級クラブが、今では半分以下に激減しているのだそうです。この光景も何十年後まで見られるのかな…。
バブル崩壊の1991年に生まれた私にとって、銀座は「誇らしかったあの頃」に未練を持ちながらも、変わらざるをえなかった都市の姿としの印象がぬぐえません。
そして「誇らしかったあの頃」のイメージを、私は夜の街のクラブ文化に見出します。
もしも願いが叶うならーーー、
銀座文化の最盛期、「モダンガール」や「モダンボーイ」がアール・デコ調の20年代ファッションを身にまとい、上品な色恋に花を咲かせた100年前へ、タイムマシンに乗って遊びに行ってみたい。
この街を眺めながら私は、そんな風に時代の残り香に想いを馳せます。