宇田川愛は、理想郷=Utopiaが本当はどこかに在って独自に発展を続けている、という表現を一貫して続けてきました。
そして、その表現は、三年間にわたるドイツでの生活と制作を通して、さらにしなやかな強さを兼ね備えるようになりました。
純白のシルクの生地を微妙な色合いで染めることが、まず宇田川愛が作品を制作するときの描き出しです。
それは、イメージを呼び起こす、感性と生命のほとばしりでもあるのです。
淡く染められたシルクに描かれた世界の向こう側が透けて観えることは、作家の感性が現実世界と常に密接に関わっていることをあらわしています。
その淡いやわらかいイメージを時に切り裂くように描かれる、氷のような白い色面や硬く冷たい樹木のイメージは、作者の強固な意志による、世界観や生命観の表現となっています。
それは時に、厳冬の雪山に分け入る小道の様でもあり、凍てつく荒野に立つ樹木のイメージには厳寒のなかでのかすかな命を育む生命のあたたかさを感じさせるのです。
クールな印象の中に息づく美しさは、命のぬくもりを感じさせてくれます。
さらに今回は、新たに制作したインスタレーションも展示します。
寄り添うように作られたきのこや天使のイメージの磁器の彫刻たちが、藤の蔓で作りあげた鳥篭に入れられています。
鳥たちは背後にあるシルク地に描かれた絵画の世界に思いを馳せながら、旅立とうとしているかのようです。
いつか観たことのある風景なのか、あるいは、いつか観てみたい風景なのか、作品の中に表現される世界は、私たち一人一人が日々の生活の中でともすれば忘れがちな生命の育みそのものの記録ではないでしょうか。