Hollis Brown Thornton は真実の認識や記憶は本質的に不完全で、どんな価値観も時代や社会の変化とともに常に移ろい変わるものであること を主要な問題意識として、ペインティングやドローイング作品を制作しています。 自分が囚われている同時代の枠組みの中にいる限りでは見えにくいそのような問題も、過去の真理とされていた宇宙の成り立ち方や、未来像、 流行のものなどを見つめることで、はじめて現在との「境界」として立ち現れることに着目しはじめます。 しかし、そのような「境界」はただ価値観の断絶や矛盾として否定されるのではありません。
むしろ彼が時代遅れとなった VHS やミラーボールといったモチーフやイメージを扱う時、それらは現在の眼差しを過去に振り向けながら反射 させて、新しい普遍的な世界像のイメージを生み出す装置となるのです。 また、世界の秩序を表す亀や星座のパターンも、はるか昔の非科学的な認識として排されるのではなく、あらたな宇宙の世界観を表す構成要 素として、作品の中で脱構築して用いられ、美しく現在のイメージの可能性へと接続されています。 それらは現在私達が見ている世界とかって人々が見ていた世界とを同時に、時間や価値観の境界を超えた、新しい普遍的な形式やイメージへ と鋳直す鋳型として賭けられているのです。
そのとき「境界」は消えるというよりも、それ自体が新たな変容へすべりこんでゆきます。
そのような「変容すべき境界」への挑戦は、モチーフや指示対象のあいまいな人物や風景のペインティング作品に明らかです。もはや鋳型は 必要とせず、描いては削る複雑な創作過程によってモチーフの輪郭や面同士の関係などの「境界」は、文字通り融解し、結果としても “眼に 見える” 流れるような「境界」へと変容させられています。そこでは創作過程もそれを追う鑑賞行為も、認識のトランスフォーメーションの 運動そのものです。その変容の運動の結果として獲得されるイメージには「The Origin of Life on Earth」というタイトルが与えられて、根源 的なイメージとして共有される事が望まれているのです。
このように Thornton のいずれの作品も、うつりゆく価値の不確かさ、その流れる境界性こそ、根源的な新しいイメージへ変容させる機会と して追求しているのではないでしょうか。