私は1年間と少し、趣味でメイド喫茶のアルバイトをしていた。
これはその出勤前に撮影した写真が舞台になっている。
万世橋交差点を始点とした都道437号線(中央通り)が上野方面に向かって延びる。総武本線の高架を挟んで、調和を無視した原色的センスの街並みを臨む構図だ。
この街には外国人観光客が本当に多い。
体感ではアジア系の観光客が多いが、フランスやドイツやロシア、オーストラリア、アメリカやカナダ、世界中どこからでも観光客が来ていた。
つまり東京で最も分かりやすい「特異点」だということだ。アニメキャラのグラビアが街頭の巨大な看板を飾り、ゲームセンターではアニメコスプレの店員が客の呼び込みに励む。メイド服やくノ一、セーラー服を着た少女たちがビラを配り、アニメキャラのグッズを大量に身に付けた青年が道を行き交う。
さて、秋葉原といえば電気街だが、
電気街と呼ばれるに至る由縁は1945年からだという。
電機学校(現在の東京電機大学)の学生のために真空管やラジオ部品などの電子部品を販売していた店舗(戦時下の闇市)が、総武本線のガード下に集まって、今日の電気街の基になったらしい。
1990年代後半には美少女アニメなどのサブカルチャーが一般にも認知されはじめ、2000年頃には電子機器系の販売店の規模が縮小し、代わってアニメ、ゲーム、音楽などを扱う店舗が増加。
2005年にはドン・キホーテ秋葉原店8階でAKB48がデビュー。今ではコンセプトカフェや地下アイドル専用のライブハウス含め、アニメのみならずアイドルの聖地にもなっている。
私がこの街を好きなのは、
趣味の街であるがゆえに、特定の人物像だけが集まらない点である。
例えば、メイド喫茶の客なんて気持ち悪いオタクばかりなんでしょ…と思うかもしれないが、それは完全に間違いである。普通のサラリーマンから医師や日雇い労働者、高校生や大学生、劣等生から優等生、低所得者から高所得者、美しい人から醜い人、健常者から障がい者、男性や女性やLGBT、10代から70代まで、おおよそ思いつく限りのあらゆる職業・社会的地位・外見・能力・年齢・性別の人々が集まる場所で、それが最高に面白い。
私はそんな “およそ思いつく限りのあらゆる人々” のイデオロギーを覗くことが大好きだった。可能であればずっとずっと秋葉原のメイド店員として、ありとあらゆる人々のイデオロギーをコレクションしていたかったくらいである。
秋葉原はこのように、
ありとあらゆる人々が混在するスポットが非常に多い。
これが他の街、たとえば六本木や銀座や渋谷ならばそうはいかない。それはアニメやアイドルという、間口の広いカルチャーを基盤とした街だからこそ見ることができる光景だろう。
2010年代の秋葉原は、
アニメ・ゲームというカルチャーの摩訶不思議な寛容さがつくりあげた、今現在しか観測できない貴重な都市の形であると思う。