雨の日の夜に都会を散歩するのが好きだ。
水に濡れた黒いコンクリートに街の明かりが乱反射して、世界が2倍になる。
青山という場所は特徴的、象徴的な街だ。洒落ていることにかけては日本一を誇るかもしれない。洒落ていること、つまりある種の優位性を得ることを欲するのであれば、この街はかなりの力を貸してくれる。
しかし私は雨の日のこの街の、濡れたコンクリートに反射して2倍になった世界の、その地面に映ったコピーの世界のほうにこの街のうつくしさを感じる。水たまりに反射していびつな形になった街のうつくしさに、お洒落だとか、優位性だとか、そういった完璧に近いものを求めつつそれでも完璧ではない、より良い高みを欲するけれどもいびつさを拭いきれない人間の愛おしさを感じる。
あまりに晴れの日が続くと、雨降りの日が待ち遠しくなる。無限の広がりのような視界をいっぱいに吸い込めることが楽しみだ。